Introduction
東海高熱工業として初めて事業部の枠を超えたプロジェクトチームを組み、臨んだ「TK-SONiC」と名づけられた焼成炉の開発。その背景には、多くの電子機器に使われているMLCCの小型化・大容量化があり、セラミック/電極層のさらなる薄層化を可能にする焼成炉への期待が高まっている。
開発のポイントとなるのは、材料を熱処理するときの昇温速度のアップ。業界トップクラスの技術を要する開発に向けて、困難なチャレンジがはじまった。
新しいものを
生みだすために
常識を覆す
MLCC(積層セラミックコンデンサ)という名称を聞いて、“どんな分野で、どんな役割を果たしているのか”をイメージできる人はそれほど多くはないだろう。確かに地味な存在ではあるものの、MLCCは電気自動車やスマートフォンなどに搭載されるさまざまな電子機器のノイズ除去や電源電圧の平滑化、フィルタ等の回路部品として使用されており、現代社会に欠かせないものとなっている。そして近年、こうした製品のハイスペック化に伴い、最先端のMLCCは小型化・大容量化に向けて、セラミック/電極層の薄層化が進んでいる。
そのための重要なポイントとなるのが、材料を熱処理するときの昇温速度の飛躍的なアップ。東海高熱工業は、今後もMLCC製造のニーズが高まっていくと捉え、セラミック/電極層のさらなる薄層化を実現する、焼成炉「TK-SONiC」の開発に踏みだした。
炉本体の設計をはじめ、搬送、駆動などの機構や制御をはじめとする付帯装置の設計、さらには雰囲気ガスの流体解析、製品PRといった各領域のスペシャリストと、プロジェクト全体を統括するリーダーで構成されるチームが立ち上げられた。
メンバーはまず、さまざまな種類の焼成炉があるなかで、最適なタイプを選定。その結果、材料をセッターと呼ばれる下敷き台に載せ、円筒型のローラーを回転させることで炉内を搬送しながら熱処理を行う、RHK(ローラーハース炉)を採用することになった。そして、通常のRHKの昇温速度がおよそ100℃/分のところ、100℃/秒という目標を設定した。分単位から秒単位へ。それは、まったく次元が異なる世界といっても過言ではない高い目標だった。
課題を洗いだす
ことで見えてきた
険しい道のり
昇温速度を上げるためには、ローラーの回転速度を1000回/分に上げて高速搬送を可能にする、新たな機構の開発が不可欠だった。しかし、お互いに接触し合うローラーとセッターが硬い素材でできているため、ローラーに少しでも反りや凹凸があると悪影響がでてしまう。この課題をクリアするためには、外径が小さく長尺で、なおかつ耐熱性に優れ、反り、真円度共に高精度のローラー材を開発することが必須だった。さらにセッターも大幅に薄くする必要があったが、当社の仙台工場にはそれを製造する設備を備えていなかった。
もうひとつ大きな課題だったのが、水素や水蒸気を含む、低酸素雰囲気下での還元雰囲気制御機能の向上である。この機能を高めることで、焼成物の酸化還元反応や、炉内の酸素濃度を制御する事が可能となるのだ。
しかし、言うは易く行うは難し。いや、開発に必要な要素を洗いだすだけでも骨の折れる作業であり、それをカタチにするとなるとさらに困難であることは明らかだった。
また、各領域の精度を上げるだけでは目標とする炉は完成できない。全体のバランスをとるため、ぎりぎりの調整が重要である。こうした難題をすべてクリアできるのか・・・・、経験豊富なリーダーでさえも一抹の不安がよぎった。
こうした状況のなかチームは、メンバーが自分の専門性を発揮しながらチームとしてまとまり、効果的に開発を進められるように、設計の各プロセスで目的に沿っているかを評価・検討する、MDR(マシーン・デザイン・レヴュー)を導入。隔週で全体会議を開き、各担当の進捗状況や課題を共有し、それぞれの視点から課題解決に向けて話し合えるようにした。ここでは担当、キャリアにかかわらず誰もが自由に意見を発信でき、ネガティブなことについても前向きに検討できる場になるよう徹底された。こうして開発は進められたが、そう簡単にはいかなかった。
「できない」
ではなく、
「やってみよう」
の精神で臨む
メンバーはそれぞれ、大きな壁に突き当たった。ローラーとセッターの開発は成形方法や焼成方法など、課題は山積み。還元雰囲気形成機能やガスの流体解析に関しても思うようなデータが得られず、焦りが生じていた。また、PR面でもお客様からの注目度は高いものの、説得力のある数字を示すことができない状況が続いた。
しかし、ここで心が折れないのが“東海高熱工業スピリッツ”。「できない」ではなく、「やってみよう」、「やってみせる」という強い気持ちで開発に向き合い、課題解決に取り組んだ。
その結果――、ローラー材については、東海高熱工業の過去の事例で得た知見を活用することで製造に成功。薄型セッターは、東海カーボン富士研究所の協力で成形体を得ることができ、仙台工場で焼成を行うことに。
流体解析は国内外の文献をとことん読み解き、利用できるアプローチを検討。雰囲気ガスの効果的な流れは、これまで経験則によるところが大きかったが、流体解析を行うことによって目視できない炉内部を可視化でき、還元雰囲気形成機能をはじめさまざまな領域で役立った。
こうした前進のきっかけとなったのが、全体会議や個別ミーティング。メンバーからのアドバイスが解決の糸口となった。もちろん、ひとつの発見やアプローチによって、一気に課題が解決するわけではない。まずは解決に向けた仮説を立て、それを評価し、トライアンドエラーを繰り返しながら一歩ずつ前進していった。しかし、そうしたなかでも、炉本体だけでなく、熱処理の精度を左右する発熱体や焼成治具を自社で開発できる東海高熱工業の体制とノウハウ、そしてメンバー一人ひとりのスキルとモチベーションが大きな原動力となったのは間違いない。
自分たちで
切り拓く
未来に
確かな手応え
現在はプロトタイプが完成し、実用化に向けた検証段階。目標に掲げた数値は達成しており、さらに精度を上げるための改善に取り組んでいる。PR活動の効果もあり、お客様の期待は高く、焼成テストの依頼も多い状況だ。
ひとまず大きな山を乗り越えたが、富士山の登山にたとえると、まだ五合目あたり。これから、より細かな改善や調整を行う大詰めをむかえる。その過程で、ユーザーであるお客様の要望をピックアップして反映させることが重要であるのはいうまでもない。完成予定は約一年後。そして、最終目的はMLCC用RHKの市場でトップを獲ること。プロジェクトメンバーは目の前の開発に対して真摯に向き合いながらも、自分たちで切り拓く未来に確かな手応えを感じている。
Project Member